2024年10月、ペットフード業界大手の「ロイヤルカナン」が食事療法食の購入方法を大幅に変更しました。
この変更と併せて行われた急激な値上げは、多くの飼い主の間で話題となっています。
私も長年ロイヤルカナンを使用してきた一人として、この問題について個人的な経験を交えながら考えてみたいと思います。
我が家の場合:糖尿病の猫と食事療法食
現在、我が家には糖尿病の高齢猫がいます。
約4年前から「ロイヤルカナン 猫用 糖コントロール ドライ」をベースに「ロイヤルカナン 猫用 糖コントロール パウチ」を1日1袋与えています。
特にパウチは糖尿病の猫が脱水症状になりやすいことを考慮し、栄養補給だけでなく水分補給のためにも重要な役割を果たしています。
しかし、ここ数年で価格が急激に上昇し家計を圧迫するようになってきました…。
例えば、パウチ85g×24袋の価格は2021年頃には税込約3,800円(1袋あたり約160円)でしたが、2024年10月以降には税込6,500円(1袋あたり約270円)を超えるようになりました。
この値上げによって月々のフード代が約3,000円増加し、年間では36,000円以上の出費増加となります。
これはパウチに限ったことではなく、ドライについても大幅に値上がりしています。
新しい購入システムについて
画像引用:Rakuten24
ロイヤルカナンとロイヤルカナン食事療法食製品の国内総販売代理店である共立製薬株式会社は、2024年10月から購入システムを大幅に変更しました。
彼らの主張する理由は「家族の一員である猫や犬の健康と長生きのため」ですが、実際にはいくつかの大きな問題点があると感じています。
新しい購入システムの概要
- かかりつけ動物病院の登録義務化
・購入前にロイヤルカナンの指定するウェブサイトでかかりつけ動物病院を登録する必要がある。
・この登録は獣医師による適切な栄養指導を受けていることを確認するためとされている。 - 販売チャネルの制限
・認定された販売店(動物病院、公式オンラインストア、認定オンラインストア)以外での購入ができなくなる。
・これにより、これまで可能だった一般のショップやドラッグストアなどでの購入ができなくなった。 - オンライン購入時の確認プロセス
・オンラインで購入する際も、登録したかかりつけ動物病院の情報を入力する必要がある。
・これにより、獣医師の指導を受けていない消費者の購入を制限。
認定オンラインストア例
10月1日開始
- サンドラッグ Online Store
- サンドラッグ e-shop楽天市場店
- ビックカメラ.com
- ヨドバシ.com
- 楽天24 どうぶつ医療館(旧:本間アニマルメディカルサプライ)
- ロイヤルカナン公式オンラインストア ベッツホームデリバリー
10月上旬開始予定
- ベッツカスタマーサービス
- ペットみらい 本店
- ペットみらい 楽天市場店
11月5日開始予定
- ペテモ動物病院オンラインストア
年内予定
- 楽天ビック
変更に伴う問題点
この新しい購入システムには消費者にとっていくつかの問題点があります。
まず、認定された販売店以外での購入ができなくなったことで価格比較や自由な選択が大幅に制限されました。
これまでは、薄利多売の優良オンラインショップを利用すれば動物病院の仕入れ値以下で購入できることもありました。しかし、今後そのような安価な購入が難しくなります。
動物病院での販売には「栄養指導料」という名目で約20%の利益が含まれているそうですが、オンラインショップで購入する場合も多くのお店がこの値段に寄せさせられているイメージです。
これは、オンラインショップに価格競争で敗れ飼い主にペットフードを購入してもらえなくなった動物病院への配慮でしょうね。
動物病院はペットフード以外で十分儲けていると思うので、そんなところでまで利益をとらなくてもいいのではと思うのですが…。
また、通常の食事でも獣医師の指導が必要という姿勢はペットの食事を過度に医療化しているように感じます。
私のかかりつけの動物病院の獣医師はフードについての細かな知識があまりないと認めているにもかかわらず、この病院もロイヤルカナンの指導・推奨動物病院に登録されています。これは、システムの実効性に疑問を投げかけるものです。
さらに、データプライバシーの懸念もあります。
かかりつけ動物病院の登録により、消費者の個人情報や購買履歴が動物病院に通知されたり、ロイヤルカナンにデータが集積されることを不快に思う飼い主も多いのではないでしょうか。
特に、かかりつけの動物病院との関係に何らかの不信感や不満を持っている方にとってはなおさらでしょう。
私は仕方なくこのシステムに登録しましたが、この新システムはペットの健康管理を重視する一方で、消費者の選択肢を狭め価格競争を制限する側面があると思います。
多くの飼い主にとって経済的負担が増加し、継続的な食事療法食の使用が難しくなる可能性もあるでしょう。
これが本当にペットの健康と長寿につながるのか、個人的には疑問を感じざるを得ません…。
ロイヤルカナンの代替品の検討
このような状況下で、私を含む多くの飼い主が代替品を検討し始めています。
値上げに対しての不満だけでなく、企業姿勢に対して腹を立てている飼い主も多いみたいですね。
実は我が家では以前からロイヤルカナンへの不信感があり、健康な猫用のロイヤルカナンインドアを「メディファス」に変更していました。
これはロイヤルカナンが一部製品の製造を韓国工場に移すと発表したかなり昔のことです。
最初は不安でしたが、幸いメディファスへの変更後も特に問題は起きていません。
現在は糖尿病の猫用のドライフードについてもヒルズのm/dやw/dへの変更を検討しています。
ただ、パウチについては適切な代替品が少なく、18歳になる高齢猫のために当面は継続使用を考えています。
他の選択肢としては、ドイツのアニモンダやイタリアのFORZA10、デンマークのスペシフィックも検討の余地があります。これらのブランドもトラブル部位別のフードを販売しています。
ただし、代替品を検討する際には注意が必要です。
インターネット上には高額な紹介料や販売手数料目当てで、質の良くないフードを「おすすめ」として紹介するサイトが数多く存在します。信頼できる情報源を参考にしながら慎重に選択することが大切です。
製品名は伏せますが、そのような製品はGoogleで検索してみると「○○ ステマ」などの不穏なサジェストキーワードが表示されることが多いです。
国産の猫用食事療法食に期待
個人的には、国産の猫用食事療法食を作るメーカーの出現を強く期待しています。
現在の世界経済情勢を考えると、国産ブランドの重要性がより一層高まっていると感じます。
近年の円安や世界的なインフレの影響により、多くの輸入製品の価格が上昇しています。ロイヤルカナンの急激な値上げも、こうした経済状況が一因となっているでしょう。
一方で我が家の猫の主食であるメディファスは、厳しい経済状況下でもあまり値上げをしていないのが印象的です。
例えば、2018年時には1.5kgが1,000円ほどでしたが、2024年現在でもそこまで大きく値上げされていません。
国産品には為替変動の影響を受けにくいという大きなメリットがあります。
さらに、国際情勢の不安定化や戦争などの影響で輸送に問題が生じる可能性も低く、安定供給が期待できます。
また、国内の品質管理基準に直接従うため、安全性の面でも欧州の超一流クラスの製品とまではいかなくてもそれなりに信頼性が高いと言えるでしょう。
最近では新しいプレイヤーの動きも出てきています。
例えば、東証グロースに上場しているペットゴーは、製造国はタイですが日本発のトータルペットヘルスケアブランド(ブランド名:ベッツワン)を謳って食事療法食の製造・販売を開始しています。
こうした新規参入は業界に新たな風を吹き込み、競争を通じて品質向上やコスト削減につながる可能性があります。
ただし海外生産の場合、前述のような為替リスクや国際情勢の影響を受けやすい点には注意が必要です。
そのため、個人的にはユニ・チャーム、ペットライン、日本ペットフードなどの国内メーカーによる高品質で低価格の食事療法食の開発に大きな期待を寄せています。
これらの企業は日本国内に強固な生産基盤を持っているため、安定した製品供給が可能となるのではないかと思っています。
【追記】
ペットラインが国産の食事療法食「ドクターズケア」を販売していることがわかりました。
しかし、対応している症状が下部尿路疾患、腎臓疾患、消化器疾患に限られており、まだラインナップは発展途上といった印象。
また、価格帯はロイヤルカナンよりもやや安価ながらも依然として高価な設定となっており、公式通販ショップ(どうぶつ病院宅配便)での購入時には動物病院コードの入力が必要というハードルも存在します。※公式ショップ以外はさらに高めの価格設定になっている。
国産ブランドには価格面での優位性や購入のしやすさを期待したいところですが、残念ながら現状ではその期待に十分応えられていないと感じています。
猫用食事療法食メーカー・ブランド比較表
症状・目的 | ロイヤルカナン | ヒルズ | ベッツワン | ドクターズケア | アニモンダ | FORZA10 | スペシフィック | ピュリナ |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
消化器疾患 | ・消化器サポート ・消化器サポート(可溶性繊維) ・低分子プロテイン ・セレクトプロテイン |
・腸内バイオーム ・i/d ・w/d ・z/d |
・消化器ケア ・消化器ケア(可溶性繊維) ・消化器ケア(可溶性繊維フィッシュ) |
ストマックケア(可溶性繊維) | インテグラプロテクト 胃腸ケア |
インテスティナル アクティブ |
対応製品なし | 対応製品なし |
下部尿路疾患 | ・ユリナリー S/O ・ユリナリーS/Oライト ・ユリナリーS/Oオルファクトリー ・ユリナリーS/Oオルファクトリーライト ・ユリナリーS/O+CLT |
・c/d ・c/dコンフォート ・c/dコンフォート+メタボリックス ・s/d |
・pHケアチキン ・pHケアフィッシュ ・pHケアライトチキン ・pHケアライトフィッシュ |
・尿石ケア ・ストルバイトケア ・ストルバイトケア スターター ・ストルバイトケア ライト |
インテグラプロテクト pHケア |
ウリナリーアクティブ 泌尿器 |
・pHアシスト ・pHアシスト スターター |
UR | 下部尿路ケア |
腎臓疾患 | ・腎臓サポート ・腎臓サポートスペシャル ・腎臓サポートセレクション ・腎臓サポート ローフ ・腎臓サポート ビーフテイスト |
・k/d ・k/d早期アシスト |
腎臓ケア | ・キドニーケア ・キドニーケア プラス(可溶性繊維) |
インテグラプロテクト 腎臓ケア |
リナールアクティブ 腎臓 |
腎心肝アシスト | ・NF | 腎臓ケア 初期ステージ対応 ・NF | 腎臓ケア 中期ステージ以降対応 |
肥満 | 満腹感サポート | ・メタボリックス ・c/d+メタボリックス ・w/d ・r/d ・m/d |
肥満ケア | 対応製品なし | 対応製品なし | ウエイトコントロール アクティブ |
減量アシスト | OM | 肥満ケア |
皮膚疾患 | ・低分子プロテイン ・セレクトプロテイン |
z/d | 対応製品なし | 対応製品なし | インテグラプロテクト アレルギーケア |
ハイポアレルジェニック アクティブ |
対応製品なし | 対応製品なし |
肝臓疾患 | 肝臓サポート | ・k/d ・k/d早期アシスト |
対応製品なし | 対応製品なし | 対応製品なし | 対応製品なし | 腎心肝アシスト | 対応製品なし |
糖尿病 | 糖コントロール | ・m/d ・w/d ・メタボリックス ・c/d+メタボリックス |
対応製品なし | 対応製品なし | インテグラプロテクト 糖尿ケア |
対応製品なし | 減量アシスト | 対応製品なし |
回復期 | ・退院サポート ・クリティカルリキッド |
・a/d ・i/d |
対応製品なし | 対応製品なし | 対応製品なし | 対応製品なし | リカバリーアシスト | CN | クリティカル ニュートリション |
※ネスレ(スイス本社)のペットケア部門・ピュリナの獣医師専用療法食「ピュリナ プロプラン ベテリナリーダイエット」を追加しました。正規ルートの通販で購入する際は「病院コード」の入力が必要です。
※ペットラインの獣医師専用療法食「ドクターズケア」を追加しました。公式通販サイト「どうぶつ病院宅配便」を利用する場合は「動物病院コード」の入力が必要です。
- ロイヤルカナン ユリナリー S/O
2kg:約6,100円(4kg:約9,300円) - ヒルズ c/d
2kg:約5,900円(4kg:約9,900円) - ベッツワン pHケアチキン
2kg:約4,350円 - ドクターズケア 尿石ケア ※公式通販サイト調べ
1.5kg:4,180円(3.5kg:7,590円) - アニモンダ インテグラプロテクトpHケア
1.2kg:約3,300円+送料 - FORZA10 ウリナリーアクティブ泌尿器
1.5kg:約4,000円 - スペシフィック pHアシスト
2kg:約4,500円
どのブランドも高価格ですが、その中では値段が抑えめなのがベッツワンとスペシフィック、ドクターズケアです。
ドクターズケアは下部尿路疾患用のみ3.5kgが販売されており、この容量なら割安。ただし、公式通販サイトで購入する場合「動物病院コード」が必要。
ベッツワンは普及促進のためか、公式ショップで10%引きクーポンを確認。
※2024年10月時点の情報
この表や価格例は個人的な調査に基づいて作成した情報であり、完全性・正確性・最新性を保証するものではありません。
各メーカー名をクリックすると公式サイト(猫用食事療法食のページ)に移動できるので、詳しい情報はそちらで確認してください。
食事療法食は獣医師の診断と指導のもとで使用する特別な食事です。療法食を変更する際は以下の点に気をつけましょう。
- 新しい療法食に切り替える前に必ず獣医師に相談
- 急な切り替えはお腹の調子を崩す原因になるので、1週間から10日程度かけて少しずつ切り替えていくのがおすすめ
- 複数の健康上の課題がある場合は、どの症状を優先して対処すべきか、獣医師と相談しながら決める
さいごに
ロイヤルカナンの公式サイトには「飼い主さん自身の判断で選んで与えたり、途中でやめてしまったりすると、かえって僕たちの健康に好ましくない影響を与える恐れがあるんだ」と記載されています。
しかし、現在のような急激な値上げが続けば継続したくてもできない飼い主が出てくることは避けられないでしょう。
更に懸念されるのは、コスト削減のために療法食と一般的なフードを混ぜて与えるという選択をする飼い主が増える可能性です。これは療法食の効果を低下させるだけでなく、場合によっては病状を悪化させる可能性もあります。
このような状況は、当然ながらペットの健康にとって好ましいとはいえません…。
ロイヤルカナンは「すべては犬と猫のために」というキャッチフレーズを掲げていますが、現状では首を傾げざるを得ません。
このような殿様商売的な状況は食事療法食の選択肢が限られているからこそ可能になっているのかもしれませんね。
高品質で効果的な栄養バランスを持ち、適正な価格で提供され、消費者の選択の自由を尊重する。
そのような"三方よし"の食事療法食を開発・販売する企業の登場を一飼い主として強く期待しています。
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参考にさせていただいた記事・サイト